技術者の思考

いつもは、あまり技術的な話をしない私だが、今回は移動通信システム第五世代を実現するために「技術者たちがどういった工夫をおこなおうとしているのか」ということをかなり簡単に紹介していきたいと思う。

5Gへ進化を遂げるために必要だった3つの技術

いつだったか、5Gと4Gの大きな違いについて「超高速データ処理」「超低遅延」「多数同時接続が可能」という3つの点を紹介したが、これはつまり具体的にどういったことをして実現したのかという話だ。

ネットワーク・スライシングで効率的な情報処理を可能に

スライス

実はこの3要素。高速処理超低遅延に関してはデータの処理が早くなっただけだと思われがちだが、実際にはそれぞれ1つずつが別々の概念である。

 

「超高速処理」には高速処理専用のアプリケーションクラウドを用意し、「超低遅延」には同じく超低遅延専用のアプリケーションクラウドを用意し、多数同時接続に関しても同じように、それぞれで専用の空間を用意しなければいけない。

 

3つの異なる要素を同じ空間で情報処理してしまうと、ごっちゃになって処理速度が上がらない。人間も3人が同じ机を使ってそれぞれの担当分野の仕事をするよりも、ひとり一つずつ机を用意してもらった方が効率良く作業を進められる。

 

ネットワーク

今回は移動通信システムの話であるため、これをモバイルクラウドネットワークというものの中で実現すると5Gを現実のものにできる。

 

VRでスポーツ観戦ができるようにしたい場合は、超高速データ処理を可能とするモバイルクラウドネットワーク内のアプリケーションクラウド スライス1で専用の情報処理をおこない、もし、複数の人たちがそれぞれで座席が欲しいという要求があれば、今度は多数同時接続を専門的に処理できるスライス2を併用することになる。

 

つまり、VRスポーツバーというオンラインサービスがあり、これを大家族全員でいっしょに自宅で楽しみたい場合、超高速の処理を専門とするネットワーク内のスライス1と、多数接続を専門とするネットワーク内のスライス2を割り当てることで、同時に複数の要素を最高速度で楽しむことができるという話だ。

 

もちろん、実際はこれに加えて超低遅延の概念も入ってくるため、その場合はもう1つ新しいスライス3を用意して、効率的にコンテンツサービスを楽しめるようになっている。

ビームのように電波を飛ばす無線技術の実用化

アンテナ

5Gの最大の目玉である超高速通信。しかし、これは今までに使われてきた通信技術では再現できない。これを実現するためには、これまでよりも、より広域の周波数を利用しなければならない。

 

4Gに使われてきた無線技術では、基本的に周波数を絞り、必要に応じて切り替えていくスタイルによって安定したサービスの提供を実現してきたが、5Gともなると、限られた周波数の領域では情報処理が追いつかない。

 

そのため、新しい無線技術を用いることで、既存の周波数に加えて、高周波数の領域も確保することに。実はすでに4G LTEの時代からこれは検討されてきた技術である。

 

ビル

しかし、重大な欠点が1つだけ存在していた。それは、高周波数の電波であるほど障害物に弱くなってしまうという点だ。

 

これはWi-MAXなどのポケットWi-Fiサービスを使用したことのある人ならば分かるだろう。電波の周波数が高いと、データを高速で処理することができるようになる代わりに、ビルなどの障害物にぶつかると、途端に減速してしまうのだ。

 

そのため、地下鉄の中でポケットWi-Fiを試しても、もの凄くデータの処理が遅く、回線が酷くて使い物にならないだろう。ただ、高周波数のため、平坦な地上で使う分にはすごく快適にインターネットを楽しめるようになっている。

 

指向性

この致命的な欠点を無くすために誕生したのがビームフォーミングという技術だ。

 

本来、電波はあらゆる方向へと飛び交って行き、特定の端末の元まで辿り着くようになっているが、このビームフォーミングというのは、なんと指向性の持った電波を飛ばすことができる。

 

つまり、Aさんという利用者が○○県○○市○○町の○番地で携帯電話をインターネットに繋げている場合、その地点へ向かって直接電波を飛ばすことができるという代物らしい。しかも、それを同時に大量の相手へおこなうことができるのだから、時代の進歩には驚かされる。

 

ビームフォーミングに対応したアンテナは、より小型化されたアンテナ素子を数百もの単位で並べ、それぞれ個々の素子から電波を細かく制御して発信できるそうだ。

 

どこにいるのか分からない相手に電波を送るよりも、特定の場所にいることが分かっている状態で、現場へ直接電波を届けるという技術のおかげで、4Gの時代から5Gへと切り替えることができる。

単純に拠点の数を増やして低遅延を実現

サーバー

先ほど、超低遅延は別の要素であると言ったが、もし、高速処理と同じようにモバイルネットワーク内のクラウドサーバー内で処理させていては、とても超低遅延なんてものは実現できない。

 

これまでは、ネットワーク側のクラウド内で処理していたことだが、これを近くにあるサーバーの中で処理させることで、人間には遅延が感じられないほどのスピードを体感させることができる。

 

どういうことかと言うと、AさんがB区で超低遅延を使ったサービスを利用する場合、5Gでは、B区に設置してある専用のサーバーを使って、サービスを受けることになるということだ。

 

住宅街

従来は、どこの区にいる人も等しく東京のど真ん中にあるサーバーを使っていたのだが、これをもっと細分化することで、単純に回線による遅延を無くすようにした。

 

A区にいるCさんにはA区専用のサーバーを割り当て、B区にいるAさんにはB区専用のサーバーを割り当て、C区にいるCさんにも同じくC区専用のサーバーを割り当てる。すると、距離が短くなり混雑も防げるため、タイムラグを感じにくくなるという単純な話である。

 

日本中でサーバーの拠点を増やすことで、超低遅延は実現できる。